落語「つる」

昔、鶴は首長鳥と呼ばれていた。首長鳥がなぜ鶴と呼ばれるようになったかというと…

首長鳥の雄がつーっと飛んで来て、浜辺の松へぽいととまった。首長鳥の雌がるーと飛んで来て、これも浜辺の松の木へぽいととまった。「つーっ」「るー」で「つる」やがな…

 

桂米團治のみんなが元気になる上方落語入門」には、「つる」の「つーっと飛んできて、浜辺の松へぽいととまった」の仕草として「『つーっ』というせりふとともに、指さした右手を右から左へ動かし、飛んでいるつるのようすを表現する」と「つーっ」が擬態語であるかのように書かれている。

いや、「つーっ」はツルの鳴き声だろう。

「つーっ」が擬態語なら「るー」も擬態語でなければ辻褄が合わないが、そんな擬態語はないはずだ。

「つーっ」や「るー」が鳴き声だからこそサゲは「『だまって』飛んできよったんや」なのだろう。

松浦静山甲子夜話」続篇 巻之十七 落咄百節には「つる」の元ネタと思われる笑話があるが、「雄ツウ』と鳴けば、雌ルウ』と鳴き」と書かれていて鳴き声であることは明らかだ。

 

一、或人の談に、鶴は霊鳥なり。飛鳴するとき、雄ツウ」と鳴けば、雌ルウ」と鳴き、雌雄相応じ、自から其名を唱ふと。坐客是を聴て、一所に往てそのことを語り、鶴の霊鳥なることを云。雌雄さて連飛の時、雄ツルウ」と鳴と言ふ。聞者云。雌は何と鳴や。其人驚き、良久ありて言ふ。雌は無言なり。

 

というわけで、「つる」は「つーっと『鳴きながら』飛んできて」と演じるか、あるいは「ツルがツーと鳴けばカラスがカー、これが本当のツーカーの仲」とマクラを振っておいてほしいと思っている今日この頃です。